大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(ワ)796号 判決

原告 吉田利平

右訴訟代理人弁護士 鍜治巧

被告 日清商事株式会社

右訴訟代理人弁護士 渡辺正造

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

〈全部省略〉

理由

原告と被告との間に昭和三七年二月二一日金七〇〇万円を弁済期同年五月二〇日利息月一分二厘と定めて原告を債務者とする消費貸借契約が締結されたこと同時に原告はその所有の本件山林につき右債務を担保するため抵当権を設定することを約したこと、および本件山林につき右債務を弁済期に弁済しないときは代物弁済として所有権を被告に移転する旨の停止条件附所有権移転請求権保全の仮登記が神戸地方法務局三田出張所昭和三七年三月二日受付第九九四号を以て、また同年六月二五日受付第三〇五一号を以て同日代物弁済を原因とする所有権移転登記がそれぞれ被告のため為されていることは当事者間に争がない。

そこで被告の抗弁につき判断する。

成立に争のない乙第一、二号証と証人宮野清こと稲田収二の証言(第一、二回)と右の当事者間に争のない事実をそう合すれば原告は昭和三七年二月二一日被告から金七〇〇万円を弁済期同年五月二〇日利息月一分二厘の約で借り受ける旨の消費貸借契約を締結し、この債務を担保するため、原告所有の本件山林につき抵当権を設定すると共に若し弁済期に債務を弁済しないときは本件山林の所有権を被告に移転する旨の停止条件附代物弁済契約を締結したことが認められる。(尤も右停止条件附代物弁済契約は抵当権設定契約と同時になされていて特段の事由も見当らないから代物弁済の予約と解する)。原告は右代物弁済の予約は原告の全く関知しないところであり代物弁済の意味も知らない者であるとし、代物弁済の予約の成立を否定するのであるが、原告の主張に添う原告本人尋問の結果(第一、二、三回)はあるが、前示の各証拠をそう合すると、前出乙第一号証消費貸借並びに抵当権設定契約書であり代物弁済に関する合意はこれと別の前出乙第二号証に作成されているのでありこの書面に原告自ら署名捺印したことが認められるし、原告は右に認定した代物弁済の予約をなす以前に訴外大和株式会社その他の者との間にその所有の山林につき停止条件附代物弁済若は代物弁済の予約をなしていることは原告の認めるところであり、金員借用にあたり担保としてこのような代物弁済契約が附随して為されることは、予め知って居て被告と本件山林につき代物弁済の予約をなしたものと認めるのが相当であって以上の認定に反する原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)は信用することができない。

そこで右代物弁済予約の効力について判断する。

(1)  〈省略〉。

(2)  〈省略〉。

(3) 次に本件代物弁済の予約が公序良俗に違反する法律行為であるとの原告の主張については本件山林の価格が、契約当時(昭和三七年二月二一日)金三〇〇〇万円であったことにつき原告本人尋問の結果(第三回)によって真正に成立したものと認められる甲第九号証の一、二、三によれば本件山林の合計価格は金三〇〇〇万円を上廻るような鑑定がなされているが、右鑑定書の作成者の判断は原告の主張を念頭において為された主観的なものではないかと疑われるし証人高島徹三の証言により真正に成立したものと認める乙第八号証と対比して右価格の判定は直ちに採用し難くまた原告本人の尋問の結果によれば第一回には本件山林の価格は金二〇〇〇万円位であり金一五〇〇万円なら買手があると述べているのであって、契約当時の価格は乙第八号証により金一二三八万円前後であったと認めることができ右認定と相違する原告本人尋問の結果(第二、第三回)証人筆谷俊一の証言はその算出の根拠不明で信用できない。また、原告が思慮浅薄で軽卒に被告を信用した上なした契約であるとの証拠はなく、原告が契約当時金員の必要に迫られていたとしても、前示認定のように全く取引経験なく代物弁済の何たるかを知らなかったとはいい難いのであるから、本件代物弁済の予約が法律の保護に価しない暴利行為として公序良俗に違反するものと認めることはできない。

(4) 原告主張の各登記がいずれも偽造の委任状により又は原告の印鑑を冒用して為されたものと認めるに足る証拠はない。

しかして、被告は先に認定した本件貸金の弁済期(昭和三七年六月二〇日)の到来したため、本件山林代物弁済の予約を完結させることを選択し、同年六月二二日その旨の意思表示を書面を以て発送したことは郵便官署作成部分は成立に争がなくその他の部分は証人高島徹三の証言によって真正に成立したものと認める乙第三号証によって認められ、同号証によって右意思表示は二、三日中には原告に到達したものと推認されるから、同月二五日には本件山林は代物弁済予約完結により被告の所有となったものと認めることができる。

よって原告が本件山林の所有権に基づいてその主張する各登記の抹消を求める本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却し、〈以下省略〉。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例